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【第1部】 第52話 命の恩人、そして②

last update Date de publication: 2025-08-23 19:01:48

「あの、そのことで、あなたに話さなくちゃいけないことがあるの。

 信じられないような話だけど、どうか聞いて欲しい」

 私は意を決して、これまでに起きたヘンリーたちとの不思議な出来事を話していく。

 彼は驚きながらも、黙って私の話を最後まで聞いてくれた。

 話を聞き終えた彼は、ただ茫然と前を見つめている。

「そんなことが……本当にあるなんて」

「信じられないよね。私も自分の身にこんなことが起こるなんて、思ってなかった。

 でもこれが真実なの。

 透真君の気持ちは嬉しいけど……その気持ちは、前世からくるものなのかもしれない」

 中村透真は俯き、しばらく考え込む。

 そして、もう一度顔を上げた彼は私を見つめる。その顔が、ヘンリーの面影と重なった。

 愛おしげに見つめるその表情……やっぱりそっくりだ。

「この気持ちが前世のものなのか、僕のものなのか、本当のところはわからない。

 ……でも、君を愛おしいと思う気持ちに変わりはないよ。

 前世で幸せになれなかったのなら、今世で幸せになってはいけないの?」

 中村透真は、懇願するような表情と瞳を向けてくる。

 やめて、そんな風に見つめないで!

 ヘンリーにそっくりな顔と声と瞳で……。

 私の中の何かがドクンドクンと苦しげに呻いた。

 それに必死に抗いながら、拳を握りしめる。

「っごめんなさい……私、好きな人がいるの。

 ヘンリーやあなたのことはもちろん好きだけど、それ以上に好きな人。

 如月流華として、愛する人ができた。

 透真君にも、これから先そういう人ができるかもしれない。

 前世の想いのせいで、その人への気持ちに気づけないのは……駄目だから」

 私は誠心誠意、今の自分の気持ちを彼にぶつける。

 前世の想いは、強力だ。

 その気持ちを本当の気持ちと勘違いしてしまうのはしょうがない。私もそうだったから。

 でも、それは今世の気持ちに蓋をしてしまう作用がある。

 それだけは防がないといけない、と思うから。

「なんで? 今の僕は君が好きなんだよ。他に誰か気になっている人なんていない。

 この気持ちが嘘? そんなの信じられない!

 これは大切な僕の気持ちだ。君を好き、それだけが真実だ。

 ……僕はあきらめないよ」

 力強い瞳……。

 ヘンリーの真剣な顔を思い出す。

 わかってるよ、その想いが決して嘘じゃないこと。

 私もヘンリーへの想いは嘘じゃなかった。

 でも、少なからず前世の想いを引き継いでいることも事実。

 そして、如月流華が今、心の底から必要としている人がいることも……。

 私は中村透真を正面から見据え、深く頷いた。

「わかってるよ。私のこの気持ちも、透真君の気持ちも、本当。それに嘘はない。

 でも、私はこの世界で一番大切で愛しい人を見つけてしまったんだ。

 だから……あなたの気持ちに応えることはできない。ごめんなさい」

 私は深く頭を下げる。

 しばしの沈黙のあと、彼は静かに口を開いた。

「やめてよ、顔をあげて。

 ……君の気持ちはわかった。でも、僕の気持ちだって簡単にあきらめられるようなものじゃないんだ。

 ヘンリーの気持ちだってきっと同じだったはず、僕にはわかるよ。

 彼のためにも、僕は君をあきらめるわけにはいかない。覚悟しておいて」

 中村透真は不器用に微笑んだ。

 その瞳は、わずかに潤んでいるように見える。

 ――この笑顔に、私は何度救われてきたのだろう。

 泣きそうになるのを必死に隠しながら、私は笑顔を作った。

 きっと、少しいびつな表情になっていたに違いない。

「ありがとう、透真君」

 私が差し出したその手を、彼は優しく握り返してくれる。

 決して忘れない……ヘンリーのことも、透真君のことも。

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